わが心のBlog

by Hiroki Utsunomiya

自意識と演技 II

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自意識と演技 I - わが心のBlog
前回「I」で大切な二つの方向を提示しました。

(A)物語を中心に据えているか
(B)自分のパフォーマンスが中心か



むろん大きなバランス問題だが(B)が強い人は要注意人物だよ、と説きその理由を述べました。
また大切な問いかけもしました。


まさか自分の役が
たいしたことないなんてありえない
と決めてかかってませんか。

本当に読めてますか?



と——。


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ここで重要である「脚本」の話をします。「I」で(演出やホンをけなす前に)と書いた点。
要するに「ダメなホンって場合もあるだろうが!(オレラ悪くない!)」って批判を受けますと、


ここに脚本の心得に近い事は書いています。
詳細は割愛しますが、それくらい「考え抜いて」大抵のホンは出来ているものです。私に限りません。
だから本気で、伝えたいわけです。

絞って書き上げ、作家が祈るように埋め込んだ補助線、繊細な仕掛けにも気づかず「読めない役者」はバクバクと簡単に「喰い物」にするからです。

作家側から申し上げると、その事態は真っ先に避けたいこと。拳をグーにしてでも、です。
もう一度言いますよ。拳をグーにしてでもだ。
そんな輩への喰いモンなどここには一切ないし、そんな輩を必要ともしていない。


逆の立場になればわかるでしょう。


目の前に「ホン」が到着するまでに「どれだけの心血が注がれたか」想像したことがあるのだろうか。
」「終幕」「」。その言葉に至るまでの脚本家の「旅路」が既に君の前に先んじてあるものだ。
あるいは見渡せば——目の前の稽古場ロケ地、あらゆる準備にどれだけの人や金が関わっているか。

考えればすぐわかることで要はレスペクト、物事に対する敬意について、だ。当然のことです。


(それに作家が死んでる場合、彼らはどう考えるのだろうか? 敬意のない者はとてもじゃないが過去の名作・シェイクスピア劇など太刀打ちできないだろう)


これは脚本「全体への想像力」に及ばずともです。
それはセリフ一つ取っても——。

 

あなたの役「ありがとう」

あなたの役「・・・ありがとう」


「・・・」が書かれているかどうか。
この三点リーダを入れる意図さえ脚本家は全神経を注ぐものです。あるいは——、


あなたの役「もう、いいよ」

あなたの役「いいよ、もう」



「もう」を倒置するかどうか。
これだけでも狙う効果は違う。そしてそれは


「そう書かれている」んですよ。


なぜか? その問い自体を大切に大切になさい。
軽視できる文字・句読点など一切ありません。


都合良くブロックし、
決めつけ、今そこにある文字を
誤読していませんか。

 

あなたは都合よく、なんの疑問もひっかかりも持たず「見落とし」ながら、ホンを読んでないだろうか。洞察力をもってそのテキストに当たれないのであれば、どうするだろうか。
(ただでさえ人は誤読する生き物なのに。)


知らない単語はないのか?
その時代背景・職業は?(現代劇であれ。)
序章の「世界」を再度繰り返します。


文中「世界」という言葉がでてきます。
これは「海外」の事を指して言っていません
世界は目の前に広がっています。
あなた以外の質量のすべて、という意味です。



目の前のホンは、君に与えられた「世界」です。
他者であり、あなた以外のことが羅列されている。その「距離」を知ることだ。

脚本が他者である以上「自分」とは違う「役」が書かれています。俳優はその役を「理解」することが不可欠です(当たり前ですが)。

しかしこれは言うは易し。
現にここまでひたすら人間の誤読を説いてます。
「大したことないなんてありえない」、と。
どれほど目の前の世界を「理解」できるか、それもまたその俳優次第なのです。

それが「自分から遠い役」にも関わらず、調べもせず、安易に勝手にセリフも変えながら、自分の半径1メートルの手グセで片付けようとする自称・役者。これも、残念ながら居るのだから。


ABをもっと細分化しましょう——。


(A)役割を中心に据えているか

(B)自分の自意識が中心か



ともあれ。

それがたとえ文字通りフラットで退屈な本であれ、その人物に命を吹き込むのが俳優の仕事ではないか。まさに「I」で語ったとおり、その「たいしたことない」人物にあなた自身が

どう近づくかだろうに。







で、それができるのでしょうか? あなたに。







——この問いは非常に大切です。
(これまで随分「意地悪な問い」を立て思考実験しましたが、とても重要です。)


あなたは与えられた役を、生かせる人だろうか。
それとも殺してしまうだろうか。

本当に、あなたに脚本(それは大切に大切に書かれた物だ——)を渡しても大丈夫なのだろうか。



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補足コラム
そろそろブロック気味の人も居ると想うので補足します。本当に「たいしたことない」とは思考実験でしかありません
あくまで役柄設定への仮想テストであり、あなたの事を言っていません。
けれど「オレか?私のことか?」とプルプル震え出す人も、本当に気をつけたほうがいいのです。なぜならそれだけ自意識が高く「たいしたことない」というワード自体がNGになっている可能性があるからです。気をつけて自分の胸に聴くといい。
(プライドばかり高くなってアンタッチャブルになる前に。)

それと。「主人公」についても言及しておきたい。
勘違いしてもらっては困るからです。主人公であれ誰であれ、物語を通して「成長する」から観る人は感動するんだろ?、ということを。まさか「無双」で「無敵」で終始ひたすらかっこいいことが主人公だと思ってね? と問い直してもいい。
で、そんなガワの強い「ヒーローもの」なんて今はどうでもいい。むしろその「憧れ」は君の成長を邪魔するだろうと想う。その憧れ自体を否定しない。私もジャッキーが大好きだしトムクルーズもいいですよ(※ここはまた別トピックだ。話は長くなる)。だが、それは心の引出しにそっと仕舞い、与えられた役に自分から歩み寄って挑むことだ。それができる人かい?

申し訳ないが基本のキとして「たいしたことない」をまず自身の内蔵に叩き込め、と言っています。なぜなら「I」のラストに書いたようにこれこそが「自意識過剰」から脱却するファーストステップであり、初めてホンが君の中で広がるからです。ホンだけじゃない。演出家からの指摘も、相手の反応も、目の前の景色さえ君の中に(ようやく)入るからだ。無敵の、負けない奴になってんじゃねえよと言っているに過ぎないのです。言い換えれば、君はどれだけその「物語」というチームの戦力になれるのか?と問うてます。わかるかな、ナル男くんナル美さん。(戻ります)

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(A)物語を中心に据えているか

(B)自分のパフォーマンスが中心か

 


俳優って本当に「ヂアタマ」が必要だと想う。


それに、ホンを色眼鏡なく平たく読むこと。
これは多くの人が想うほど、いわんや、ナメてかかれるほど、簡単なことではない


と私は知っているがあなたはどうだろうか?


それに構造と感情。これは絶対の両輪
どちらが欠けてもだめでしょう。しかしながら、多くの、まだ日の浅い役者は







自分の感情で(ナメて)読む。







この問題をずっと指摘しています。
感情人の特徴は「見たいように見る」。すなわち、見たくないものは見ていても、見えない
それが俳優として致命傷に至ることを、気づいてないのではないでしょうか。
物語と役割、その切り分けができてないのではないか? とこっちが引くこともあります。
要するに世界(=あなた以外の質量の全て)に対する敬意が足りません。

(日が浅くないベテランでも、その失礼無礼は同じです。むしろその方々のほうが「手遅れ」の可能性があります。意識のアップデートが足りず、変化も恐れガチガチだから。それは演技術にとって致命傷でしかない)


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でもこのように解像度低く、ホンの読めない役者は残念ながら、ゴマンといます。


まずは一言一句、てにをはに至るまで全て解体して読むことだ。君のその(ナルな)自意識など脇に置いて。自分の解釈の変化など怖がらずに。

そして自分に与えられた役が
たいしたことない可能性も決して捨てないことだ。
迎え入れることだよ。

その者に足らないのは物語のロジック・構造
で、そこへ開かれるべき自身の胸襟
論理・道理を自意識が邪魔しているのだから。

また社会的な問題や地位もここにはありません。純粋に貴方の脚本への読解力が問われるわけです。
エラい偉くない、金持ち貧乏、ましてやベテラン、新人も等しく関係ない。読解力があるかないか。

そしてその読解した果実を自身に撃ち込めるかどうか。「たいしたことない」をどれだけ受け容れられるか。我が物にできるか、なのです。



しかしこう書くと恐れる人もいるでしょう、


「それを認めてしまったら、私・オレではなくなる!絶対阻止!」——と。



だいじょうぶだよ、全然。


なにを気にするだろうか? 君の下着の色なんて知りませんよ。
自意識なんてモンは、たとえ足蹴にして縛って君から遠ざけたところで、隙あらば君にヘバリつくもんだろ? それ位放っておいても本当に大丈夫です。

(それにまさにこの「絶対阻止!」こそが自意識の弊害だ。そもそも役者なら「役に生きる」んじゃないんかい!と想うね。——かっこいい役以外おことわり? ふーん。百歩譲って仮にそうでもその「かっこいい」はあまりに表面的だ。とてもじゃないがそんな動機で針の穴を通すような表現はムリだと考える)


それよりも!

目の前の世界に敬意を持ち、変化を恐れずハッとしながら、内容をしっかり受け容れることだ。


その上で貴方の才能を発揮してほしい。


言い換えますよ。


その上——、つまり、


物語の構造・状況をしっかり捉えた上で(

鮮烈な、余りにもフレッシュな、
貴方の「たいしたことない」をぶちかましてほしいのです(


 

繰り返します。


物語の構造・状況をしっかり捉えた上で(

鮮烈な、余りにもフレッシュな、
貴方の「たいしたことない」をぶちかましてほしいのです(





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さあ。やっと・・、

(B)表現の項 に辿り着きました。


鮮烈な、余りにもフレッシュな
たいしたことないをぶちかませ——。


次回「III」に続きます。


 



※なお本文中、三点リーダを「・・・」としましたが、本来は「……」(記号も二つ)です。が、このブログフォントだと変な記号になるので「・・・」としました。