備忘録として書いておきたい。
孤狼の血を鑑賞した。とても評判がいい。
(日本映画はとかく気を遣う。すべて「敬称略」で感想を述べるのでよろしく、なのだ)
まず「月刊シナリオ」で(たぶん)決定稿を今月読んでいた。
シナリオ読んでから観に行こう、と。つまり、それくらい期待していた映画だった。
なんで期待していたか?
それは「キレる役所広司」が本当に本当に大好きだからだ。
「おおぉ!! 今回はキレるのかっ!!」
たんぽぽ。シャブ極道。一連の黒沢作品。渇き。・・など、キレる役所ファンとしては待望の(?)新作だ。当然クライムもの。しかも警察組織&ヤクザものだ。これはポテンシャル高すぎる!ちょっとちゃんと期待しよう!と思ったわけだ。
見た印象。自分の感慨は、
「く、食い足りねぇ・・」である。
まだまだお腹はすいている、気味だった。
採録シナリオを読んでいたせいもあると思う。見る前の脳内イメージを超えなかったというか、たぶん邪魔もしている。志の高いプロダクトに間違いないし、コンプラの効いたご時世への気概も充分ある。が、どうしても食い足りない印象が残った。
それはどうしても、役所広司である。
正直「10年前にこの企画があってよかった」と映画館で見ながらにして思ったのだった。
いわばデニーロにとっての「カジノ」のよう。
なんとなしに、そこはかとなくだが覇気がない、というか正直勤続疲労気味に感じた。
もう、こういう役に飽きているのではなかろうか・・。ギラつき純度200%な役所ではなく、うっすらだが、しかし確実に「いい人」が漂っている。加齢、ではなく微細な役作りであると信じたいところだが、しかしシナリオからはそのギラギラをオレは視ていただけに、ああそうかぁなどと、ちょっと入り損ねてしまったのだった。
(むろん水準高くこの「寸止め」も必見なのだが。)
期待パート2。
それは竹野内豊と江口洋介だ(以下敬意をこめ敬称略&エグっちゃんとす)
こんなこと言うと恥ずかしいが、とても好きな二人である。なにより艶っぽいではないかあの二人!
それに本気で竹野内豊の演技は前から感心している。そんな彼らも出る!まじか!がぜん期待した。
想像(鑑賞前の脳内興奮)を超えなかった。
竹野内さん。そこまで「大友勝利」をトレースする必要ありますか?
なんていうかな・・もっと竹野内豊であってほしかった。たしかに舞台は「昭和63年」。
昔かたぎのヤクザの最後の時代だろう。だから、ああ設定した、ってのもわかる。
わかるが、せっかくあなたなんだから、もっと「スマートなヤクザ」に振っちゃってよかったよと。もっと言うと「山口組外伝 九州侵攻作戦」の津川雅彦になってほしかった!大友ではなく!!
レジェンド大友勝利(演じる千葉真一! 広島死闘篇)
要するに水っぽさをすげー期待したのだ。が、どうも生の衝動レジェンド「大友勝利」を意識したとしか思えず、もったいない!ってのが一番印象だった。(まさか「九州侵攻作戦」の津川を知らんわけなかろうの?)
もう一人の津川雅彦候補(?)として、エグっちゃんがいた。どれだけ水っぽくやってくれるのかと。
ストレートにやったなぁ、という印象。
とくにシナリオ上のシーン98「厨房」。
ここは無言劇として書かれていた。しかし完成では無言劇ではなくなっている。出力を「多くの人へわかりやすくした」のだろう。がここ、無言の艶を見たかったよ。もっとも痺れるシーンだからだ。
前々から思っているのだが、江口洋介は日本のカート・ラッセルだと思う。
カートラッセルも彼の魅力を引出すのがすごく難しい俳優だ。タランティーノでさえ失敗している。
そんな立ち位置に、エグっちゃんもいると思う時が多々ある。
そういう意味で、ワルの「水っぽさ」をカラダで体得しているのがどうしても北野武監督だと感じる。
けっしてアウトレイジと比較するわけではないのだが(白竜なんて最高だ)。
あとは、科白。
広島の人どう思ったろう?ネイティブOKでしょうか? そうであればいいのだが。
また全編、粋な科白がちりばめられているのだが、完成版ではけっこう自動的だなと感じた。全てを肩越しのツーで撮って科白を出す必要もないとは思いつつも、そのすべりは気になった。
それと録音。これも東映ヤクザリブートとして踏襲したのだろうか?
「聞き取りづらい!」って率直に思ったなぁ。(70年代実録物はもっと聴きとり辛いのだけど・笑)
おしなべて、シナリオ読んで入ってよかったと思ったのだった。
これ、リアルタイムで話追えたかな?
どうですか、見た方。 もちろん、説明ゼリフなんてダサくそこまで差し込む必要なんてないんだが、ちょっと追いづらいと感じた。これは原作モノの宿命か。前提がちと深く、地図が描きづらい。
この映画はけっこう若い人も観ていると聞く。
とてもとてもいいことだと感じる。
それはこの映画自体が「世代を超える」ことをひとつのテーマにしているから。
大上の何かは引き継がれてゆく。
そこにはとても伸びやかな思いが残った。