アウト・オブ・デートであると知りつつ、6日前に行われたM-1 グランプリの感想を書きます。
すぐ書こうと思えば書けたのに、寝かせてしまった。
でも、寝かせて丁度いいくらい、20回大会という節目にも相応しく色々考えが及ぶ大会だったと想う。
(もちろん言語化はたいへんな作業だった。)
では、感想に参ります。

◉まずは「敗者復活戦」から
・・とその前に敗者復活戦でしょう。
スキモノは敗者復活から押さえるモノでオレも通常業務として鑑賞。みなさんはどんな感想だろう?

ドンデコルテ。最高でしょ。
個人的には敗者復活戦ぶっちぎりの一等賞。
ビズ用語もモチベーション話法も的確でくだらん!笑 すぐの敗退は悔しく解せなかったなぁ。
今年はどうやらLemino が版権を持っててすぐに紹介できないのだが、機会あれば是非見てほしい。
ほか敗者復活戦で印象に残ったのは
家族チャーハン
例えば炎
の2組かな。
家族チャーハンは、幕張イオンのよしもとホールで見た事があって情が移ってる。実際2年目?くらいなんだよね(なおその時のお目当てはエバースね。エバースはのちに大いに触れたい)。
例えば炎はあのボケの無形さ、というか気楽さ。気楽なんだけど「ボケノイローゼ」な、言わなきゃ気が済まない系の佇まいがいいよね。
そんな敗者復活戦は舞妓のマユリカが制す。
これはたしかに面白かったな。
◉去年の振り返り
去年2023年のマイ・採点をここに挙げます。
令和ロマン 94 S
シシガシラ 87
さやか 91
カベポスター 90
マユリカ 88
ヤーレンズ 93 A
真空ジェシカ 91
ダンビラムーチョ 88
くらげ 88
モグライダー 92
去年は一番手の「令和ロマン」がそのまま、第一回大会の中川家以来の一番手による優勝。
去年も書いてるけど一番手が評点の基準になり、どうしてもデフレの大会となった(個人的に)。
今年の結果を・・・もうみなさんもご存じとは想うが、まあすごかったよね。
それでは寸評とともに見ていきましょう。
◉マイ・採点
0.中川家・礼二 99点
審査員登場採点。笑 「大阪のおっさん」!!
まーーじーーで、最高!!!!!!!
ものすっごくリッチな瞬間だった。これぞ芸!

1.令和ロマン 97点
すげー。と舌を巻いた。去年一本目の「登校時の曲がり角」よろしく学校ネタなんだが、何に感心したってそのマップ具合だ。観客のアタマにいかに「状況のマップを描かせるか」ってマッピング展開能力は基礎にして超重要技術に思うのだが、もう、すごいよね。その上「渡邉」に「刀Y」だもんな。博多大吉氏の言うとおりで「一番手とわかっていても、ある程度以下は付けれなかった」に完全同意する。オレは97だったよ。個人的にはここで「90」を叩き出した哲夫の、その後に待つだろう採点トラブルがまじで心配になったね、なにやってんの?、と。
2.ヤーレンズ 93点
自分のメモをそのまま書くと「ノットフレッシュ」。去年の「しゃがんで立つ」オバサン・ヤーレンズはたしかにフレッシュだったが、今年も同じ手法でいってしまったね。M1の恐ろしさ、というか、同じ手法で残れるほど甘くない大会であることを示してしまったな、と感じた。
3.真空ジェシカ 96点
商店街ツアー。いやー! 真空ジェシカ。初登場のときに次ぐベストではないか? いや、初登場時を越えたかもしれない、という感想を持ちながら見ていた。それくらい良く、川北氏が政治色を全開に出してきたのも嬉しい感じだ。今年の真空ジェシカはいいぞ、と想った。
4.マユリカ 92点
同窓会で相手にされないうんこサンドイッチ。うーん。そうね、敗者復活の「舞妓さん」が持ち手札のエースで、復活戦にそれを「出さざるを得なかった」んだな、と感じた。今年1年でかなり平場にも出、トークも小慣れしてた点でも個人的にはホッとした。
5.ダイタク 94点
まずダイタクは「好き」であることも加点したい。彼らの漫才技術は安定してうまく、個人的には以前のネタ「父親のボーリング」「言うな!調子よかったこと言うな!」の中毒性を買っている。今年は(アンチ)ヒーローインタビュー。好きなパンチラインは「ちょっと緊張しました、相手が国だったんで」。ラストイヤーおつかれさまでした。
6.ジョックロック 90点
手術のネタだが、個人的には「ちょっとマップが描けない」と感じた。描いているんだが、その描写力というかね。あとは、そうなんだよな——。もうシチュエーション漫才が少し古く感じてしまう怖さが今年にはあると思ったんだよね、この演目見てて。むろん——怖い話でさ。とにかく今回の彼らは「自分たちの名刺をおけた」ということだと感じました。
7.バッテリィズ 95点
今大会の華。バカを笑うというシンプルな営みを日本中に改めて想い出させたバッテリィズ。とにかくキラーワードがすごい。「全部聞き取れたのにィ!」「自転と公転さえ分かればァ!」は思わずメモとっちゃうほどキテた(笑)。エース氏のブルーハーツみ、古き良き、そして新しくも、正しきバカ具合。
8.ママタルト 88点
スーパー銭湯。今大会もっとも「割を食った」のがママタルトだったように思う。語弊を恐れず言えば「安心して採点できる」というポジションに陥ってしまった。彼らのベストとも思わないし、本来の大鶴氏のポテンシャルも使い切れずおわってしまった。
9.エバース 95点
まず「ファン」であることを公言したい。去年の敗者復活戦ケンタウロスも記憶に新しく、「タンデム自転車」と「野球ひじ」はまじでケッサクなのでオススメだ(←クリックすると観れます)。よしもとホールにも足を運んだくらいだったので、今年決勝に残り「これはあり得る!」と喜ばしかった。
閏年のショッピングモール。あと1点足りずの4位となるが、これは額面通りの接戦だったとしか言えないし、ここはのちにも触れたい。今年は「くるくる」と一年中言われ続けたエバース。実際他のコンペティションも勝っていったそのプレッシャーもねぎらいたい。
10.トム・ブラウン 91点
審査員たちのコメントの通り。とくに塙氏がのちに自身のYouTubeチャンネルでこぼすのだが「トムブラウンは85点でも95点でもいい」というのが言い得ていると感じる。それと誰が言ってたっけ、「去年の敗者復活のネタのほうがよかった」はオレも同感だったりする。去年の落ちてくる弓矢の方が何とも言えず不気味でよかった。今年は「扇風機で回る死体」ね。その不気味さをオレは愉しんだよ。彼らのトレードマーク「合体」からもう一つ新しいフォーマットを提示した去年・今年にリスペクトを送りたいし、「悔いなく出来た」というコメントには重みしか感じない。ラストイヤーおつかれさまでした。
◉一回戦総評
こわい、怖い一回戦。
当然のように、毎年レベルはあがっており、それも今年は「普段なら優勝チーム」が3組あったのではないかな、という感慨しかない。
令和ロマン
バッテリィズ
エバース
この4組はとにかく別格だ。
逆に言えば、あとの6組とのあいだには
おおきな、
大きな川が流れている
と、はっきりと感じた。
むろん、この「大きな川」は毎年カタチを変え流れている。その「差分」を毎年考えるのだが、今年は令和ロマンという「滝」の存在も考えざるをえない。
川で分離した、標高の高い「真空地帯」にさらに未知の「滝」が流れている。そんな「秘境」を我々は目撃するんだから、面白くないわけがない。
◉優勝決定戦の感想
サクッと語ります
真空ジェシカ ★★
アンジェラ・アキの度を超したヒス。笑。そんな超現実なクソ設定をすんなり受け入れられるこの状況こそがスゲーと思うし、日本人ってなんなの?と思う(たいへん褒めてる)。となりの会場の漏れる音を我々は共有し、鬼と化したアンジェラアキを我々は追う。川北の無音の間を我が物とできる集中力と胆力。真空ジェシカは本当に進化している。すばらしかった。
令和ロマン ★★★
高比良くるまの「会場掌握力」。その圧倒的カリスマ性と演技力に隠れがちだが相方松井ケムリの器用な表現と通る声も見逃せない。評論は意味を成さず、高比良くるまがこの下らなく、隙がなく、2.5次元でばかばかしくも感動を「余儀なくさせる」戦国ショーを形作った。この力業で実力を余すことなく見せつける手法に「こりゃあ、むりだ・・」すごすぎの一言を贈る他なし。お見事。
バッテリィズ ★
世界遺産=墓巡り多し。その角度の素晴らしさ。サグラダファミリアを「工事現場」と言い放つ面白さ。無理はないのだが若干固かったのは惜しく、また構成には「出来杉」が少し匂い立ってしまったように想う。むろん、それは誤差だしもはや好き嫌いの範疇。個人的には「前の二組が良すぎた」。
結果は皆さんご承知の通り、
「令和ロマン」
前人未到、連覇達成。
しかも2年連続「一番手」による連覇ーー。これがどれ程すごい記録かは語るまでもないでしょう。
私の投票も文句なく「令和ロマン」だった。
◉令和ロマンについて考える
今大会(も)「令和ロマン」を中心に考えないとならずこれが大変だ。彼らは一体なんだ?という事。
上記で散々「怖い・こわい大会」と唱えている。
が、その中心に彼らがいることは疑いようがない。彼らは、
◉ ジャンルキラー
◉ カテゴリーキラー
◉ 後続キラー
◉ ストーリーテラーキラー
という「アビリティ」をもち(←2.5次元的に言うと)
そのどれもが「超激レア特殊アビリティ」なのだが、
◉ カリスマ性の最高峰バッヂ「ヒトラー」
◉ 空間掌握スタンド「チェンジ」
という、出現率1万分のイチ、ユーザー垂涎の2アイテムも持ち合わせている。この感じはなんだ!
一昨年、敗者復活戦で初めて目撃した令和ロマン(たしか藤子不二雄的題材だった)はまだまだチャレンジャーだった。それを想う時、去年の伸びはおろか、今年のラスボス怪物っぷりが半端なく「終わらせましょう」はリアルな呪いとして、少なくとも向こう3年は効力を発揮し続けることだろう。なぜなら、
彼らはこの賞レース自体を
ある意味「終わらせた」から。
それ位の強さ、カテゴリーキリング、何より実績となった。ノンスタイルもパンクブーブーも果たせなかった連覇をそれも一番手で達成したのだから。
また恐ろしいのが「後続キラー」能力だよ。
あの真空ジェシカさえ本歌を取られ、一介の、フツウに新しい程度の漫才に至っては「古くする」この恐ろしさ。この感覚は、ダウンタウンの登場時の感覚と近い、と言えば大袈裟だろうか。少しでも芸風がカブると、比較され下位互換にされてしまう「怖さ」。
くわえ「ヒトラー」と形容したが、そうなんだよ。
試しにもう一度、彼らの演目を観るとわかる。
「そこまで」ではないから。
つまりファーストインパクトと、その時点で掛けられる「魔法」。彼らは老獪なまでにその魔法の使い手であり、またその魔法だけではない表現者なのだった。
この二人は営業マンやっててもトップオブトップを獲ったろうし、要するにそういう事ではないか。
もっともこの感覚は当然ハレーションも生むこととなるのだが。
◉頭のいい漫才と「競技」問題
令和ロマンとこの2年間。
いや、余裕でその前から、だが、「インテリ漫才と愚直な漫才」という対立「ムード」がある。
この「ムード」は「西(大阪) vs 東(東京)」というクラシックな対立構造よりも、より深刻にM-1 を包み込んでいる、と感じる。頭のいい人間が、分析研究・全量検索したのち、繰り出される「データ漫才」が席巻している、という論調のことだ。
これは「データ将棋」とそのアレルギーにも似て、データ将棋がロマンと勘を求める派から嫌われるように、バカによる、愚直な、ロマン溢れる漫才を「なんとなく」所望するムード、というか。
で、このムードに自分自身の見解を示すなら
オレはこの論調に
与(くみ)しない
となる。なぜなら「アタマの良さ」・・それは決して学力ではなく「ぢアタマの良さ」はどんな、あらゆるショーでも必要だと考えるからだ。当然ではないか。
勘違いしてほしくないが決勝にくるような、いや、準決進出者でもいいが、勝ち上がっているだけで、充分ヂアタマがいいんだから。
今年バッテリィズが跳ねたが、彼らが、本当にバカなのだとしたら、十中八九ソコにはいないし、仮にバッテリィズのエースが、あるいはモグライダーのともしげが「本気で天然純度のバカ」なのだとしても、その魅力に真っ先に気づき、磨いて輝かせる頭脳犯が必要だ、ということに変わりなく、要するにそういう事じゃん、と思うのみだから。
M1の恐ろしさは充分オッケーな上に
「競技」である
というエゲツナイ《上澄み性》にある。
本当に10,000組の《上澄み》を掬う行為。
これは我々視聴者自身が望むランニングマンショーなのだ(出典:映画「バトルランナー」)。
そこにおいては、9,999組の屍が並ぶのだ。

映画「バトルランナー」
もはや、令和ロマンという名は完全な皮肉だ。
令和のロマン。それは「終わった」のかもしれない。20回大会はかくもドラマチックであった。
◉今後のM1はどうなるだろう
絶対王者として「令和ロマン」は去る。
まともにM1 を考え、打ち込む競技者であれば「とっとと抜けてくれ」だろうと思うんですよ。
そうしてリセットののち、また来年がある。
どうなるだろうね。
もう「エバース」の戴冠は近い、と思っているので(笑)そこから逆算すると、だが、
マイク一本
磨き込まれた技術と
目の付け所と、ワードセンス。
なにより、その人間の人間力
でしかなく、要するにそれは今までもそうだったし、これからもそうなのだと感じるのでした。
そうして来年も「大きな川」が流れるだけだろう。
以上、6千字の今年のM1レビューでした。
では!