前回、前々回と音楽のメタファーについてつっつきました。
これが意外とプライベートな反応が好評で(笑)、今日は絵画におけるひとつの見方を書きます。
もちろんこれは愛好家や専門家には常識でしょうが、意外と浸透していないように思うので。
それに欧米の、アートと接するフツーの人々にとっても当たり前の態度なのですが。
——それは、
「どうして自分はこの絵がイイ(魅力的だ)と思ったのか?」
という解析 についてです。 解析って書くとかまえますか?
いやいや。 ホント軽ーい話です。
「この絵、いいね!」と誰しもが言えますし、そう感じることができます。
しかし、どうしていいと思ったのか? という疑問を立てると、アートにおける洞察力がつくと思います。 自分が良さを感じてる要因はなにか? 色かも知れない。 構図かも知れない。 フォルムかもしれない。 そのタッチかもしれない。 では一つだけ選べるとしたら、その画のどこか? いいね!と思わせる箇所はどこか? と。
単なる「いいね!」で次の展示に進むんではなく、少しだけしぶとく観察してみる。
そうすると、とんでもない発見(←当人比)に出くわす幸運だってあったりします。
これはなにも絵画でなくてもいい。音楽でも映画でも。「自分はどうしてキライか?」でもいい。
それに別に先生を必要としない話です。模範解答なんて全くなく、自分だけの手応えの世界です。
たとえば絵画は当然ながら、一枚絵です。 その一枚絵のなかにしか、答えはないのです。
「この絵はセンスがいい」「感受性が高い」とか、そういう感覚も、全てその一枚絵のなかにある。
だから「どうしてイイか」も自分対そのアートのタイマンのなかにしかないのです。
(書くと、とても当たり前のことなんですけどね。)
一応念押しに書くと「どうしていいか?」の「どうして」はなにも権威的なことでもありません。
著名な誰々さんが推してたからいいわけでも、有名な画家の作品だからいいわけでもないですよね。 ペダンチックな博識も、一切必要ありません。 逆に邪魔になるとおもいます。
もっとも、有名な作品はそれだけ多くの人が見る。だからこそ、自分の中の基準が必要だとも言えます。 たとえばこの絵。 ボクはパッと見た時、いいなーと思いました。
ピカソ画伯のムーランガレ(1900)。
どうですか? 素敵な絵だと思いませんか?
参考に、ここでのボクが辿った解析を書きます。
で、そのあと、「で、いったい、なんでいいんだろう?」 と観察しました。
できれば「色合い」や「雰囲気」という言葉は最終段階までとっておきましょう。
その前に、しぶとく、です。 すると、ココに気付くことが出来ました。
← 誰かさんの後頭部
おおー。 こんなところに後頭部がある!
そっかそっかぁ。 左端の女性はこの人と愉しそうなんだね。この絵にはそんな箇所がある!
しかしここで二つの疑問が自分の中にでました。見た最初のことを思い出しましょう。
- 左端の女性に、オレ、気付いてたか?
- この後頭部の発見は、オレの中の「イイ」の完全な理由か?
2つの疑問とも、否、でした。こういうのは自分に正直、がミソです。 どうやら違う。
しかし上記2つの点が導き出した推論もありました。
3)後頭部をもってくることで、ピカソはまるで写真のスナップをしたかったのでは?
この後頭部のありなしを想像して下さい。まっ白なキャンパスから立ち上げ、最終的に後頭部を描く……。 なくても成立するはずです。女性だって、もう少し右に書いたかもです。
しかし、そうではなかった。
後頭部や女性が「はみだす」ことで、全体像にスナップ感覚を感じている自分はいないか?
ではスナップ感覚って他の言葉ではなんだ?
それは「リアリティー」、はみだして存在する「スケール感」ではないか。
作者はその場のリアリティーやスケール感を表現したかったのではないか?
ということに気付かされます。もうこれだけでも一発目の鑑賞以上のことに気付いたわけです。
が、肝心な「イイ」理由はペンディングのままです。もう一度、自分はどこを見たか?
洗い出します。
パッと。 このあたりの情報量をぼんやり見ているはずです。
「色合い」の良さはまだ我慢しましょう! そこで気付くことがあります。
4)パッと見る。 ……ってことは、逆に言うと、どこにも焦点があわないってことでは?
ここでハッとしました。
そうなんです。 この作者は「ぼかし」てる!
動くモノはボケが強く、比較的動かないモノはボケないようにちゃんと考えてる!
どーん!!
「雰囲気」といういわば、範囲のひろーいズルい言葉の種明かしはここにあるかもしれません。
ぼんやり見続けられる。
ということはすなわち、絵画の場合、意識的にぼかしているのだ! 同時に、まさに、スナップとしての絵画を意識的にやっているのだと、気付いちゃったりするわけです!
ピ、ピカソよ! どーーーん!!!
5)でさ、それがイイの完全な理由?
OK。 正直に言おう。 わからない。
しかしここまで来たら解析は終了です。 ここまでやったらココロを開放していいじゃないか。
最終段階といっていた「色味」。すばらしい。人物のデフォルメも素敵。 そうとしか言えん。
しかしそんな色味やフォルムをふくめ、この場にいた作者がスナップしたいほどの「喜び」。 書かざるを得なかった「喜び」。 そういったものが伝わってくる絵だとは思いませんか?
もう一度、ムーランガレを鑑賞してみて下さいな。
こんな風に絵に接するととても愉しいですよ。 オススメです。
というわけで、みなさま、よいお年を。 (← 強引?)