わが心のBlog

by Hiroki Utsunomiya

パリ開会式の賛否



パリオリンピックが始まった。
開催国、その都市が嗜好を凝らす「開会式」。
毎回(東京大会以外)愉しむわけだが、今回



セーヌ川を中心とした五輪史上初
非スタジアム型イベント




だったので、今回の開会式をレビューしたい。


◉まず総論・感慨
今回はほんとうに初の試み。非スタジアム型。
街自体をジャックしたイベントであること。
これ自体にたいして


大いに賛成
ナイストライ


と思う。それは思う。
こういう「初」はむろん前例がない、ということがなにより重要だからだ。彼ら主宰自身が挑戦したことであり、成功体験のない挑戦、という「心意気と勇気」はむろん買いでしかない。その上で



冗長さと良さの
あまりにも混在した
ごった煮だった



と思う。そしてこれが一番だがそのごった煮は




あまりにも長かった




というのが最大のオレの感想だ。まとめれば、


冗長。あまりにも長いが
キラッと光るパートが点在する


という吉兆半ば、いやその吉兆具合は

(吉):7(兆)

という感じにオレは感じた。これが感慨だな



複雑系のハンドリング
章題に「複雑系」としたが、まさにそう。
スタジアムという限られた敷地を駆使するイベントと違い、制約は段違いで増える。


・キョリの問題
・移動距離と撮影距離
・仕掛けの巨大化
・段取りの巨大化


集中と拡散、という観点で言えば、現実空間は「拡散」の連続。エントロピーの極致だ。
セーヌ川」という「サイズ」をスケールの中心にすると、人間一人はあまりにも小さく、仕込みも段取りも巨大化するわけだ。川をゆく旅客船をボートの撮影隊が併走する、ただそれ一つの段取りをとっても、工数は巨大化する。

実際「大きな画」が美術で使われたり工夫はあった。
が一方で、旅客船の前で行うストリートパフォーマンスはさきほどの通り「セーヌ川のサイズ」で画角を切っているため、あまりにもその表現は小さくみえる。それにその「人とキョリと時間」の関係、つまり行進時間の肥大的長さに「この時間中、チミたちはずっとパフォーマンスしてろ」はさすがに酷だし集中力は当然拡散する。

そういった「人のサイズと建物のサイズ」、つまり人間的演出と現実の物理的キョリが合わない・長い、という問題。それらが相まった、移動時間の冗長さは顕現化したし、「集中と拡散」を繰り返して「しまう」現実空間としての絶対的特徴は、スタジアム型の比ではない——。これらが今回の大きな大きな特徴だろう。

「集中と拡散」の「集中」という点では、当然撮影の画角で狭めて視聴者の集中を促すわけだが、あらゆる地点でのスイッチングにSWさん、ハンドリングできてないとこも(時間がたてばたつほど)あったし、まあ無理はないが大変な仕業だった。ぜったいやだなぁ、胃に穴が空くでしょスイッチャーさん。あと撮影もどんだけの段取りでやってることだろうか。繰り返すがスタジアム型の比じゃない。

差し込む「ドラマ映像演出素材」でそれらカオスを毎回戻す狙いだが、それも吉兆半ばだ。
ここはあとで後述したい。


◉光る素晴らしい演目もある
今回の開会式はそういった冗長さ・至らなさはあるものの、鮮やかに光る演出もあるから面白い。
筆を急ぐと各論、私の評価は以下になる。


【文句なし!・とてもよかった】
・マリーアントワネットの幽閉
・イマジンの燃えるピアノ
エッフェル塔有機的電飾


【条件付き・制限付きだが褒めたい、感心】
・銀の女騎士と白い馬(フィナーレ)
・大道芸パート(愛のパート)
セリーヌディオン「愛の賛歌」
・舞台レ・ミゼラブル(V)
・ヴィトンの工房(V)
・額縁から抜け出る名画達(V)


【もっとまとめなさいよぉ〜。クドすぎ】
・物理移動の冗長さ(先述)
・ダンス項目!まとめなさい!

・そこと紐付く「パリらしさ」
・章立てのあまりの多さ
・行進と催しの天丼進行


【がっかり・なんだそりゃ】
・「聖火を持つ謎の男」のオチ
 映像など延々かさねたオチが
 ジダンに渡すだけかい!
・「銀の女騎士」のオチ
 長々かけて旗渡すだけかい!


【うんこ・必要なし】
国立図書館の3人(V)
 大道芸の感動を大いに
 邪魔するだけ。要らなすぎ


他にも「このタレント要る?」のアリナシなど色々あるが、主要ピックアップ明記が以上だ。



マリーアントワネットの幽閉」は本当に見事だった。まさに「建物」が主役の空間演出であり、私がもっとも感心したのは上階の演出だった。一つの窓に一人ずつ楽器を奏でる紳士を置いたこと。そして最後は「血」を連想させる赤いテープの応酬。フランスの自由が血で獲得されたことを雄大に語りつつ、首を持つアントワネットサロメすら担保しつつ実に「エスプリ」が効いていて素晴らしかった。



イマジンの燃えるピアノ」もシャープだ。
楽曲がイマジン、ジョンレノンは英国だろ!というのはもはやいいだろう。なんたってレディ・ガガから始まるし、セリーヌディオンはカナダだ(カナダはフランス語圏あり)。この大会は節操がない。
それよりも演出に唸る。ピアノが燃えている、それだけで先の紛争や領土侵攻へのシャレードとなっていて実に見事だ。惜しむらくは雨。まあこの「雨」は最後にも書くよ。

で、省略して「条件付きでよかった」や「うんこ」とグラデーションしてゆく。特記としてはクドいまでの「パリらしさ」。で、そこを語るには「ダンス」以外無いので本当に「もっと絞ってもらっていいですか?」というツッコミしかなくなる。そういった「アレもコレも」感。アレもほしい、コレもいれたい——それはだめだ。もっとまとめてくれ。

差し込まれる動画も良し悪し。
動画はセットアップできるし所々光るが、とくに許せなかったのが「図書館の3人組」。コレ要る?
本当に交互に映る大道芸の邪魔でしかなかったよ。自分も映像作家なのでキモチはわかる。
入れたいんだろ? でも必要ないVは作らない、という勇気こそこういう場で本当に必要なんだよ。

イベントは全体的に皮肉にも「フランス映画」を見るようだった。
昨今のフランス娯楽映画は往々にして言い過ぎで要素多く、まとめきれなかったり本当にそっくりだ。



◉1時間は削ってくれ!
とにかく時間が長すぎる。
章立ては長いし、アレもコレも感に辟易しつつも、たまに光る素晴らしさを見る。だから「冗長。あまりにも長いが、キラッと光るパートが点在する」という感想でしかないのだ。

この催しは4時間だった。

欲張らず絞りまとめ、せめて3時間のショーならたぶんもっともっと賞賛された開会式だったろう。
そんなわけでハイライトやダイジェストで見れば「わあすてき!」となるだろうね。しかしこちとらリアルタイムだとそういった「吉兆半ば、いや3:7」のレビューとなり申した。

主催者側は雨を心から呪ったろうな。
ドラマチック? いやいや。主催者にとっては呪うべき呪いでしかなかったろうし、実際機材トラブルとか多発したらしい。なにより! 雨の中演奏する方々だ。バイオリンとかあらゆる楽器が雨っさらし。今後の労災を心配するほどだよ。



◉最後に総工費
で、これほど大がかりなパリ五輪のお代金。


 推定82億ドル
1兆2千8百萬円。チーン


掛かりすぎ。
ほんと? と思うがソースを紹介。


www.businessinsider.jp



大がかりな開会式を見る限りこの82億ドルのうち、かなりの割合で投資されたと推測でき意地悪に言えば、そのレシート証明のような時間だった。そのうち、開会式の費用内訳発表もあるだろう。
なお前回東京オリンピックの大会経費総額は1兆4238億円と公表されている。似たり寄ったりよ。

費用対効果でどう見るか。
そんな要素もバリバリですよ。
長々と書いた。しかしこれは自分への備忘録。
ではでは!