「パラサイト・半地下の家族」を再見した。
映画館の体験からだいぶ経ち、改めてのリファレンス(再検証)。で、今回2度見た。
備忘録としてここに記す。
●ファースト:映画館体験
まず去年初頭、映画館で見たファーストの感慨。
それは「なんてアタマのいい映画だろう」ということだった。
「これ、ほぼノーミスじゃん・・」
と開始1時間位舌を巻いて観たのを憶えている。
それになんと言ってもチェ・ウシクだ。
息子役の彼に釘付けだった。これでアカデミー賞助演にノミネートされないのはおかしい、とまで思ってた。それくらいよく、ソン・ガンホとともに替えの効かない存在だった。
もっともハッとしたのは、雨の中。
あの下流へと流れる怒濤の雨。そのタテの構図。
それと元家政婦の「得体の知れなさ」にはハッとしまくった。家政婦同士が階段を駆け下りるあの「中盤」は最高に得体が知れない。
それとこれは、そっか・・通信技術の映画かぁと思ったのを憶えている。Wi-Fiであり、トランシーバーであり、モールス信号・・ははぁーなんて賢い映画だろう・・と。
それとずいぶん政治的だな、とも。インディアン(生贄)か、なるほどね、と。これは後ほど。
●リファレンス(再検証)なう
さて日が過ぎ、このたびリファレンスした。
今回二度観たので、映画館と併せ計3回だ。
・「計画」について
・「景水山石」について
・「臭い」について
・持つ者・持たざる者、タテの関係
・トイレより下(コオロギでありゴキブリ)
・主人と隷属の関係・・
などなど、考察に事欠かない映画だ。そんな中、皆が指摘するような考察に走るのも、芸がない。笑
他では余り書かれていないことを書こうと思う。
なお先述の「通信技術の映画」という点。
これも、なかなか言っている人に遭遇した試しがないので、そこんとこよろしく。
1.もっと深掘る「通信技術」
その「通信技術の映画」ということをさらに深ぼると、パク社長(リッチな家族の旦那さん)は、
・VRの開発をしている
よね。貴重な会社シーンで。つまり、
・通信技術の最先端
にいるわけですよ。そこで、
・彼にどんな運命がまっていたか?
を思い出してほしい。
そうするとまた違う味わいになると思う。
最新技術もまた「廃れ・代替されゆく存在」って暗喩につながるだろうから。それにそもそも「通信技術」とは
・外部とのコミュニケーション
を司る技術である。外部・他者との伝達作業。
ここで「外部や他者」がこの映画の中で、どこまでの範囲で、どう使われているか、という点もこの映画の渋い味わいポイントだと感じる。
2.パク社長視点で考える
引き続きパク社長に登場してもらう。
ひとつ考えて欲しい。この映画ーー、
と。ーーいや、ギャグじゃなく。
ものすげー怒ると思うんだわ、納得いかねぇ!と。
オレなんかは半地下の家族にビンビンくるわけだが、「彼ら」の見方もまた確実にあるからだ。
要するに観る人、見る角度によって如何様にも変わる映画、ということを改めて言っておきたい。
この問いは「万引き家族」でも「ノマドランド」でも「アス」でもいいはずだ。
なおパク社長への感慨はもう一つある。
この役をやった俳優:イ・ソンギュン。
私は彼に、
最大級の拍手を送りたい。
彼は役者の鑑だと思う。なぜなら、
「いい役」ではないからだ。生け贄である。
それでいて超重要だからだ(もっとも必要ではない役などこの映画には存在しないが)。
私はこういう役回りに「YES」と言える俳優こそ、讃えたい。本気で。
その意味で、元家政婦役のイ・ジョンウンも素晴らしい。ポンジュノに限らず、力のある映画作家は当然「その俳優自身を試す」ものだ。この映画も全ての役者が試されている。そのエグさがある。
そこにおけるポンジュノの配役は悪魔的緻密さだ。
3.リビングにみる愛のカタチ
この映画には「絶対悪」が存在しない。(し、悪を行った者はちゃんと罰せられる構造をもつ。)
このことも多くの人が指摘するし映画自体がそうだが、私は元家政婦の名誉を一つ、挽回したい。
リビングに注目して欲しい。
複数の家族がこの「リビング」を使うからだ。
その際、こう問いかけ、思い出して欲しい。
リッチな夫婦はリビングをどう使った?
半地下の家族はリビングをどう使った?
そして
家政婦●●はリビングをどう使ったかーー?
三者三様の「個性」がしっかり現れているから。
とくに、家政婦●●がリビングをどう使ったか、感じていたかーー。
ここを憶えている人は少ないと想う。
というか、必ず忘れているはずだ。わずか15秒くらいのシーンだから。しかしこの家政婦●●が
もっともエモーショナルに
リビングーーその「空間自体」の意匠を誰よりも理解し、捉えていることに気付かされるだろう。
そしてココからわかることは、
アートを感じるチカラに
貧富の差など存在しない
というポンジュノの拳の固いメッセージだよ。
もっとも。物語の大勢には影響しない。
が、この「リビングの発見」が今回のリファレンスで、一番好きな発見となった。
リビングにおけるそれぞれの「愛と知性」だよ。
以上、元家政婦の名誉(と人柄)を少し挽回す。
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そんなわけで、そりゃもっと色々ある。
最後の入居者はドイツ人。
あー。そうかぁ、米軍が駐留している国だな?(あるいは歴史上二つに割拠された国同士だ)とかさ。
それと「インディアン」について。
これは劇中でも「インディアン」である。「ネイティブアメリカン」と言い換えてはいない。
つまり古典の西部劇における〈典型的な悪役〉を確信的に指している。もっと言うと、
最初に侵略された人々
であり、差別された人々だ。
日本との古戦の名を差し込むこともポンジュノは忘れない。そして現在での「主人ー従属」のタテ関係が、映画の上で所狭しと描かれている。(良い悪いは別だ)
とにかく「詰め込むだけ詰め込んだ」本当にアタマのいい映画という印象に変わりはない。
それに「SF」以外、映画のあらゆるジャンルが詰め込まれていることも異論の余地がない。はたまたラストを「SF」(息子なりのサイエンスフィクション)と捉えれば、それこそ全ジャンル制覇だろう。
というところで。
あとは、一般的な感想になるので割愛しつつ。
最後に一つどうしても言いたいのは、
このオープニングの面白さは
異常だ
ということ。
思わず「逆バコ」で、開巻12分(坂道まで)書きおこしてしまったほどだったよ。笑
以上。
私なりの、他では指摘されない系評論でした。
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【追伸】
去年鑑賞当時レビューはしていませんが、
アカデミー受賞に際しては一筆しています
(かなり特殊な切り口だけど。)
よかったら読んでみて下さいね