わが心のBlog

by Hiroki Utsunomiya

ワールドカップ/旅立った者たちと日本



スペイン戦、もう結果はご存じの通り。
オレはそこへの心の旅と感慨を述べたい。

その後グループリーグで散った選手達と、ベスト16で対戦するクロアチアへの感慨をのべます。
4000字とこれまた2記事分だけど、ぜひ。



◉スペイン戦と私

グループリーグ敗退の味はいつも同じだ。

空しさで味などしない
このチームはもっとできた



これが全世界共通、敗退の選手達と国民の思いだ。それも勝ち点4の敗退国など沈痛の極みとなる。
グループリーグ敗退の味。日本もよくよく知っているはずの、この感情。


スペイン戦前。


オレはかなりの確率で「この感情」を味わうんだろうな、と感じていた。彼らはGLで帰ってきそうだ、と。わずか数日前の「イフもしも」を記そうか——


ああ、ドイツに勝ったのは「フロック」扱いされるんだろうな・・アジアからのベスト16は結局オーストラリアだけか(※当時)・・「弱いね結局、アジアは」とでも評されるんだろう・・そんな評価を知ってか知らずか国内じゃ1勝2敗の日本を必死になって「惜敗」「善戦」とマスコミはおだて・・それも「美談」という催涙ガスでいつもどおり痛みを散らすんだろう?・・それでも痛みなんか癒えず戦犯探しが始まっていつもの、いつもの光景になってゆく。そうしてまた日本サッカーは闇に落ちるのか。本 当 に や だ な





はっきり言います。





こうならなくて
本当によかった





そんな劣情ルサンチマン列島などみたくない。

むろんまさか、まさかのドイツスペイン両巨人越えだ。すごすぎる。なんて清々しい裏切りか。

しかし彼らが越えたのは試合だけじゃない。


今までの概念


を越えたんだ。それが最も素晴らしい、すばらしすぎる功績ではないか
「ありえたろう」ダークな世界線をかき消した事。これがどれだけの勇気と信念と実行力を必要とするというのか。そして「それが為し得られたこと」。オレはこのことを心底本当に嬉しく想っている。


むろんスペイン戦を詳細に看ていく事も可能だ。が、そこにどれだけの意味があるだろう。
データは記録づくしだ。(ソース
ボール支配率17%でW杯で勝ったチームなど今までの歴史にない。ないんだよ。


読めない。
今の日本はとても読めない。


それはモンスターを扱う視線でも、外部に身を置く姿勢でもない。読めないものは読めず、そして



いいものは いい



それだけとなる。嬉しすぎる悲鳴だよ。
(※森保指揮官については後日ゆっくり語りたい。今は大会の行程を見つめるのみ!)

本当の「新しい景色」。悲願のベスト8。さらなる未体験ゾーン。さあどうなるだろうか。
また、こうも言えるだろう。

ドイツに勝ち、残り2戦をせず空港に帰ってきても、たぶん誰も文句を言わなかっただろう、と。

それがあのコスタリカ戦以前での世界線よ。
みなさん、違ったとは言わさんよ?笑


それがスペインもやったんだもんなぁ・・
ドイツ対スペインの激戦みて目を閉じたもんよ。
こ れ は 強 い と・・。

むろんここでも「スペインも人間だ」と書いた。
でもそれは祈りも含まれてたことを告白するよ。
よく勝ったよホント・・。すばらしい。


ただ、


一つだけ。書いておきたい。
ここは「肝中のキモ」だろうと想う点を。それは鎌田へのヒアリングで明らかになっている。




この小さな記事は大きなことを言っている。
記事から鎌田のコトバを引用する。


「同じ(守備時)5バックをやった時はフォーメーションが少し違っていて、選手間でもあまりうまくいっている感じがなかった。僕はフランクフルトでの成功体験があったので、こうしたほうがいいんじゃないかと言わせてもらった」

 

「今日は僕に関してもタケに関しても守備に追われて犠牲になるシーンが多かったけど、やり方としてはハマっていた」



文字にすれば、単純だ。
が、このことは「献身性」について深遠な示唆に富んでいるよ。なぜなら攻撃陣は




攻撃したいんだもん。
名声手に入れたいもん。





それでもヨーロッパカップを獲ったMFは5バックの知見をチームに共有し、彼自身も身を捧げた。
ミックスルームで悔しさがハミ出てた久保も同様。仕事に徹したのだ。——これは簡単なことか?

もう一度問いたい。——これは簡単なことか?
オレはそうは思えんし、これが今の日本の強さだ



守備陣と攻撃陣の軋轢。



これが手っ取り早くチームを崩壊させる近道だ。それは日本のみならず世界中で共通の難病だ。
チームの絵を合わせることはそれだけ難しく、チームの実力を20にも200にもする。現に今回はベルギーもこの軋轢にヤラれている。



鎌田はこの時点で
2006年のナカタを、オノを
フクニシをゆうに上回っている。




上回っている、という表現は正確ではなく「成熟している」が適切かもしれない。
むろん「オレの考えはちがった」とドヤるホンダより余裕で今のMFとFWははるかに成熟している。現にそんなホンダが2010年と18年、献身したからチームは勝ち上がったんだろうに。
くどいようだが今の日本は過去最強だ。


だがオレはコスタリカに彼らの欲を看たよ。


フィーバーし、みなが主人公になりたがっていた。
鎌田はイキってたし、攻撃陣はカラ廻る。すぐウラばかり狙う。相手は5バックでウラなどないのに。

ドイツに勝ち、欲がうまれたんだ。その攻守のズレが微細で確かなノイズとなった。
コスタリカ戦が「いつもの日本」に戻ったこと。そこには「相手が54ブロック」という表層以上のことが隠れているんだよ。


みなさんも注意して欲しい。


勝ち上がり賞賛したいキモチが、彼らを追い込むこともある、と。
そこに必要なのは想像力ではないだろうか。

日本の大躍進の影には、グッと我欲を捨てチームに貢献した姿がある。ドイツ戦スペイン戦で守備陣を賞賛することはいいことだが、それによってふつふつと攻撃陣の私欲の闇も、出場のない選手もあることを忘れてはいけない。
そしてこの要素の影響は本当にデカイのだ。それは今までの日本代表の歴史が物語っている。


もっとも。今のチームは心得ているだろう。
彼らのケアも行われている、と想像もできる。そうでないとドイツスペイン撃破はまずないからだ。

ただコスタリカ戦をみるに「20か200か」はある。ここ一番の集中力を持続してほしい。
チームが一つになること。
これがいつだってチーム競技のカギでしかない。






◉旅立つ者達への挽歌



露と落ち 露と消えにし 我が身かな

浪速のことは 夢の また夢

 




これは豊臣秀吉の辞世の句(とされる)。
有名で、そしてあまりにも美しい歌だ。



「夢のまた夢」



時はワールドカップ
4年という大河を越え国の威信をかけ、3試合に命を賭けた者達——。そのドラマは喧騒とカオスに充ち、夢を追い道半ばで旅立った者達の墓標だ。


ベスト16を前に、旅立った者達を記したい。



エネル・バレンシア エクアドル13番
大会切っての最高にクールなストライカーだった。エクアドルは1勝1分1敗の勝ち点4で散った。
勝ち点4の敗退。エクアドルの通夜だ。



メフディ・タレミ イラン9番
イランからはイングランド戦2得点タレミ。彼が心に残る。イランのアイドル、アズムンはハート面で彼に遠く及ばない。タレミの在籍はFCポルト。CLで得点もしている。これからもがんばってほしい。



クリスティアン・エリクセン デンマーク10番
彼も旅立ってしまった。正直イチ推しだったデンマーク。EURO4位、上り調子の彼らもこの大会は完全に不発でおわった。世界中の実力均衡を象徴し、この大会はナマモノである恐ろしさしかない。



サレム・アルダウサリ サウジアラビア10番
アルゼンチン戦決勝点の男もこの大会を去った。「2018年5月19日のラリーガリーグ戦、ビジャレアルレアル・マドリード戦で後半12分から出場し、33分間戦ったのがアルダウサリの唯一の記録。」という小さな記事をみつけた。——彼のように記録としてはわずかでも、その豊かな経験を元に大舞台で命を輝かす選手たちが、この世界には溢れている。



ティボー・クルトワ ベルギー1番
彼が「30歳」というのがまず驚きだが、世界最高峰のGKもこの大会に別れを告げた。ベルギー代表デブライネは大会前「我々は年を取り過ぎてる。ノーチャンスだ」と言って物議を醸し、その後も内紛がどうやらあったようだ。負けて語る言動、そして攻撃陣と守備陣が乖離するとき。それらは危険水域における世界共通のリトマス紙だ。さよならベルギー。



アルフォンソ・デイビス カナダ19番
技術・スピード・知性ともにトップクラスの輝きをみせたデイビス。カナダ悲願の1勝はならなかったが、シンプルかつプラグマティックで走るサッカーは観ていて本当に気持ちよかった。アデュー!



フェデリコ・バルベルデ ウルグアイ15番
「落陽のウルグアイ」を支えたバルベルデとベンタンクール。彼らがまた新たなウルグアイを創ってゆく。さよならカバーニ。さよならスアレス



マルク・テア・シュテーゲン ドイツ21番
ここでドイツを紹介することになるとは。ドイツからはあえてGKテア・シュテーゲンを。ノイアーに後塵を拝し今大会未出場で大会を後にする。DFギュンターなども一度も出ていない。彼らは帰国に際しなにを想うのだろうか。



こうして。

 

空しさで味などしない
このチームはもっとできた



選手たちと、彼らに想いを乗せた国々の人々は敗退の味を噛みしめ、自分の住処へと戻っていった。
さて明日は仕事だ」と我に返りながら。





クロアチアという国



最後に彼らを。
ベスト16で日本と対戦するはクロアチア
モドリッチ擁する彼らには「祖国」がある。

彼らはまもるべき「祖国」があるんだ。
我々には想像も及ばないような、銃弾と犠牲で勝ち得た祖国への喜びと誇りが彼らを一つにする。
レアルマドリーではスマートなモドリッチも、ナショナルエンブレムの前ではダーティな選手と化す。

オレは元より大好きで前回大会も特集している。
よかったら読んでみてね。


本当に楽しみな一戦だ。
ベスト8を賭ける、またとない相手。
最高じゃないの。


勝ち上がって完全な未体験ゾーンで痺れたい。

日本代表、がんばれ。






最後のさいごに——。
ええ。わが句で末席を。



壁はるか 過去も未来もなかりせば
我何想う 夢もなしとや

(壁はたかい だが過去も未来もなければ
 なにを想うんだ? 夢もないじゃないか)



者どもの つよきよわきを語りては
目を閉じ問わん いま勝ちたばや

(よんだとおりじゃい)