わが心のBlog

by Hiroki Utsunomiya

手記・守護天使たち〈必読〉

製作手記を。忘れてしまう前に。
5月15日。
インスピレーションからちょうど1ヶ月。
そしてこの旅もようやく落ち着いた。


今回、自主短編映画は撮影まで2週間という旅だった。それは短くも、濃く、長く、険しい旅だ。

ヒトは喉元過ぎるとなんとやら、で、もうその困難さは当時の実感からは薄れている。
けれど、それでも「ずっと困難だった」ことは脳裏の記憶から離れず、すぐに思い出せる。
毎日のようになにかにボコられ、毎日のように誰かに救われ、立たせてもらう。そんな日々だった。
つまり、刺激的な毎日だった。


誰も居ない街は、皮肉にも美しい。
この光景をおさめたい。
それも男女の、素敵な物語にのせて・・


自分が始めたことによって、自分自身がはげしく多忙になった。つまり自業自得だ。
御陰様でこのさ中、忙しくさせてもらったわけだ。
人間はげんきんなもので、こういう時、脳みその「仕訳」は本当にすごい、とホトホト想う。
あれだけ「ほげー」と白痴のようにやっていたスマゲーもYouTubeすらこの期間、興味がわかずピタリと止まる。準備と仕込みでそれどころではない。製作を決意してからというもの「見るだけ損する」ことも火を見るより明らかで、TVにも触れていない。
連日連夜、コロナだ。
ここに、真逆の視点から挑もうとする人間にとって、その同調圧力は不要だった。またその矢面に立とうとする者にとって、バラエティは空疎に映った。見ていて1分も保たなかった。家に居れば日に何度も市役所から拡声放送が響き渡る「明るい未来のために、不要不急の外出は控えましょう」——。格好良く言う、格好良く言うが、この二文字がオレを支配していた。

孤独。

この孤独な真空ゾーンを久しぶりに渡った。
つまり公共的恩恵と個人的恩恵が乖離する瞬間だ。それも瞬間ではなく長く続いた。
もっと言えば、アートと自意識の孤独。それはキャストや協力スタッフが決まり合流するまでの10日間に渡った。やめようと想えばいつでもやめることができた。


しかしこれは撮る必要がある。


急ぐ必要がある。



そうとしか想えなかった。
きっと「緊急事態」は解除される。解除されヒト月もすれば、何があったか、何を言ったか、何を想ったかさえヒトはしれっと忘れるのだろう。街には人が溢れ車が往来し、なにもなかったかのように、街は今まで通りの景色になるのだろう。
311が風化するように。
80年前の戦争が風化するように。
そこに警鐘を鳴らして何が悪いだろうか。
そう想う。
しかしなにより、誰も居ない街は、皮肉にも美しい。それは、その光景は二度と訪れない。


不要不急ではなく、急ぐ必要がある。


ミッションを終えた今でもそう想う。
この間、オレは「すみません」と「ありがとうございます」しか言っていない気がする。
もっとも企画責任者として最善の努力はした。その上で渡りきることを願った。ロケ1週間後の安否確認でみなの無事を確認し、肩から荷を下ろした。



ひとつ笑い話がある。
準備も中盤の話。(中盤であれなにも、誰一人固まってなどいない。オレと物語だけがある状態だ)
今回は「まちあわせ」を巡るストーリー。ふさわしいロケ地の道路許可が必要だった。毎日のように何かにフラレ、張り詰めた緊張状態にあるオレは恐る恐る警察署の担当窓口に訊いた。


オレ「あのー」
警察「はい?」
オレ「こんなご時世なのですが、あのー」
警察「はい?」
オレ「道路使用許可などは出しておりますか」





警察「ロケ? 出してますよぉ。どこぉ?






オレはこういうときの警察が本当に大好きだ。
それもはっきり言ってオレより遙かに上手。メッカに位置する彼らはロケというロケを熟知していた。



警察「自主映画なの? そっか。あのねコンテが必要なの詳細な。それと地図ね、それから・・」


親身に必要書類を教えてくれた。その日の守護天使(ガーディアンエンジェル)はこのヒトだった。
沁みるんだよ。まじで。このやりとりで一筋の光が差した。のちに粛々と提出したことは言うまでもない。窓口の真面目そうな係官はコンテを見ると口角を上げ「ふん」と笑った。



この映画は守護天使たちに支えられている。

まずは二人のミカエルとラファエルだ。
勝手に命名してしまうが・・。

まず中高の学友、ミカエル・よっこ
彼女がFacebookで4月の東京を写真に撮り伝えてくれなかったら、オレのインスピレーションもまたなかった。ほとんど誰もいない表参道の光景は私を魅了した。自分の中で完全なる起爆剤だった。よっこありがとう!
(だから彼女の投稿の日付さえ見れば自分の開始日がわかる。4月15日。そこから始まった)

そして守護天使、ラファエル・スドー
地元の須藤君がとある仕事を紹介してくれなかったら、それもその企業からなんと「前金」で(!)プロジェクトフィーを与ることがなかったら、この映画もまたなかった。今日もラファエルと守護天上界にむかって祈ろう。(むろん魂の仕事を奉じる)

言っておくが、私はコロナ云々のはるか前から経済的に「潜水艦」だった。
そこに567という魚雷が当たっている。さながら、Uボートの艦長のように深度計を睨みながら「止まってくれー・・」と息を殺していたのだ。水圧でボルトがぴゅんぴゅんと弾け飛ぶ中を。

奇跡の前金。
冷え冷えとして、不気味にも美しく輝く街。
この度重なる条件に本気で



神さまが撮れと言っている



と想った。
こう書くとヤバいヒトのようだが、瞳孔開きっぱなしの中、啓示をうけた。本当にね。
トイレにも神様がいるように当然のことだが、映画には神さまがいる。オレも何度か会っている。
神さまにそう言われてるんだから、生活は度外視だ。ラファエル資金を投じこの物語を創った。



すべての謝意をここで伝えることはできないが、まずこの風圧の強い中、スタッフとして賛同してくれた小谷野君はじめ、沼田さん笹田君松本さんジュニア大明神には心の底から敬意を表したい。

それから主演俳優の二人。
葵うたのと山本一賢に最大級の賛辞を贈りたい。ふたりの俳優が、この男女の物語を豊かに彩ってくれた。彼らにとっても代えがたいエクスペリエンスになったとしたら、この上なく嬉しい。

今回(も)重要な登場人物、とも言える音楽。その音楽監督には島ちゃん、そしてCGはナカムー。
学生時代からの仲で大役を引き受けてくれた。機材を貸してくれたガッツも。盟友達に感謝を。
初日(撮影はなんと追撮もしている!)に綺麗なスケーティングを披露してくれたケンシくん。そしてそのスケーター人脈をつなげてくれた鹿島くん。剛太、うだくんにさいださん。初期の立ち上がりではたいへんお世話になった。マスクをわけてくれたN氏にも感謝を。シェアしてくれた皆さんもどうもありがとう。今回、いいねではなく「シェア」には、企画の性質上、全く重みが違うと感じています。

シネマプランナーズというポータルサイトも素晴らしいものだった。
ここでの公募において、信じがたいほどたくさんの賛同と応募を本当にどうもありがとう。その中から何人かとは貴重な話しもさせてもらい、私自身刺激を頂いた。また、陰で応援してくれた全ての人に感謝の意を表したい。

芸術監督としての仕事はおしまい。
まだ作品はこれからが本番。
プロデューサーとしての仕事が待っています。みなさんにいい報告ができるようにがんばります。




・・とキレイに終わっていい。ところなのですが。
やはりどうしたって、今回は情緒や思想の一面も記しておきたい。困難とはまさにここについてだったから。
この、撮影までの期間。それはわずか2週間だったが、濃く長い日々だった。どうしても「時間」「時の流れ」というものを考えざるを得なかった。
そして人間同士の「思想」というものを——。
またこうも想った、

正しさやポリティカルコレクトの中に、どれだけのアート(創造力)があるのだろうか?とも——。


むろん誰もが肯く正しい答えはないはずだ。
それぞれの価値観がある。べつに誰が「敵」なわけでもないし、私だって仲良くしたい。
しかし残るのは、儚くも有限であり続ける人間の辿った「軌跡」だけではないだろうか。それは生きとし生けるもの、すべてだ。それはなにもコロナすら関係ないだろう。
どんなプロセスを経たか。
つまり、どう生きたか。それだけではないか。
自由意志。または行うことと、行わざること。
いつも考えることだが——これらレッドラインを厳しくも徹底的に考えさせられる、良い機会だった。


「戦争」についても考えざるを得なかった。
80年前は誰もが黙した。黙さない者は憲兵隊によって捕らえられた。欲しがりません、勝つまでは。同調圧力というものはかくも人間性を奪ってゆく。戦争とはそういう状況に置かれる事を言うのだろうと想う。尊厳。このことも強く考えざるを得なかった。
しかしこれにはとっくに結論がでている。オレの感慨など、当時の1萬分の1程度の、うんこみたいなものであることを。——あの戦争ではこの国だけで300万人が亡くなった。むろんコロナの比ではない。アート活動のできる現代はなんて恵まれているだろうか。


最後に。
この短い短篇映画は故・大林宣彦監督に捧げたい。
彼は生前こう語っている「プラカードを掲げるな」。伝えたいことは、作品に昇華せよ、と。
彼の遺言も私を奮い立たせた。そして、自分なりの手向けにはなったのではないかと想う。



どんな時代にも男女は居る。
そして、どんな時代にも笑いは要る。
そう。
これは「それでもなお」、コメディです。


贅沢にも敢えて選んだ道は、コメディ。(567だからってシリアスに仕立てるのは趣味じゃない)
その中に映画の歴史もこめています。ほとんどのジャンルを詰め込んだ。言うなればジャンルは、

映像詩的ポリティカル
サイレントSFホラー
ラブロマンティックコメディ。

わずか5分弱の、ね。
ここまで書くと「おい見せろ」になるかもですが、暫く忘れて下さると嬉しい。そのうちなにかしら報告できることでしょう。
だってねえ? いいじゃないか、まさに自由意志で好きな映画を超絶逆風アゲンストの中やりきったんだ。今後も好きなようにやらせてくれ。上映等々は一旦忘れて待ってくださると幸甚です。
私も経済活動に戻らんと本気でやばく、暫く置きます。海の底、まずは機関室と艦内の復旧を・・



みなさんに愛を込めて。ありがとう。
インスピレーションからヒト月が経ち、これを記す。


敬具
数週間の眠気が一気にキテる
Uボートキャプテン 宇都宮弘毅より