わが心のBlog

by Hiroki Utsunomiya

ノーマルハート、クレイジーズ

我が家に兄がきた。
仕事の合間にて寄ってくれた。なんでも来週から大阪なんだそうな。
で、兄弟が揃ったらやることは一つだろう。言うまでもないが、それは映画鑑賞である。笑
かなりのグルメ二人が揃うわけだからそりゃ映画鑑賞だ。ヤイノヤイノ言いながらコタツ鑑賞となる。
あーだこーだ言いながら観るの、最高よ。

今回はべつに狙った訳ではないのだが、ソッチ系となった。ーー感染(パニック)ものだ。
今の映画ファンは「パンデミック」と言うと即「ゾンビもの」を指す輩も多く今回はそう言わない。
パンデミックぅー」と言っときゃいいみたいな風潮が許せない(って蛇足だがソンビはゾンビものだからな?)。なので、本来まさにパンデミックものなんだけどその用語は用いず、進めます。

そんなわけで。
Xmasに「スモーク」を観る》ように、
真冬に「八甲田山」を愛でる》ように、
感染モノを二作、イムリにしみじみ鑑賞。
紹介します。

ザ・クレイジーズ」と「ノーマルハート」。




ザ・クレイジーズ(1973)
脚本・監督 ジョージ・A・ロメロ
「ゾンビ」の巨匠ロメロ73年作。スティングレイのDVDね。以前買ってありこのたび鑑賞さ。

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スティングレイでは廃番

謎のウィルスが蔓延し町は「説明なく」封鎖される。逃走する町民と統制する軍部、双方の視点で描かれるスリラー。ロメロにとってはナイトオブザリビングデッド後だが、傑作「ゾンビ」前夜の作品。演出は所々ポップでロメロも若かったんだなぁと思うに至る(相変わらず黒人の描き方がうまい)。

で、中身はぎゅんぎゅん入ってくる。
イムリーなだけにリアリティを保って世界観にすんなり入れる。素晴らしいよ。(うれしくない)

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この物語はゾンビではない。ウィルスにかかると人間が「凶暴化して死ぬ」ウィルスだ。
軍は「ワクチン」と称し輸送中墜落、漏洩してしまった。むろん極秘事項だ。故に町が閉鎖されると、町長や保安官も軍の対策本部に飛び込んでくるんだよ「何が起きてるんだ!」ってね。
軍部にとっては町の住人など抑えつけ黙らせる対象でしかなく、そんな対策本部もまた軍と政府上層部の「使い捨て」。この構図が力強い。

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ホントいつも思うんだが、
「防護服とガスマスク」はスタイリッシュだ。
ホラーに必要な「アイコン」感として充分すぎる。
でも今は、防護服なんて「見慣れたニュース」になりつつある。ーーそこがなんとも怖くね?
現実では、あとはガスマスクとライフルだけだな。ってかんじだ。(うれしくない)

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リンローリイ貴重なインタビュー

個人的にはこの映画を経て、クローネンバーグは「シーバース」の着想を閃いた、と踏んでいる。
現にクローネンバーグは現場に遊びに来ていたらしい(!・なんて贅沢な関係)。そして両作品とも女優リン・ローリイが出演する。
彼女はこの2作に出た、というだけでカルト・クイーンとして堂々と誇っていい。
え? シーバースなにそれ? 見てないって?
ふざけんなよ? オレの小学生トラウマ映画、五本の指に入る一級品だぜ?




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ノーマルハート(2014)
監督 ライアン・マーフィ
出演 マーク・ラファロ マット・ボマー
   ジュリア・ロバーツ

Outstanding. とはこの時に使う言葉だ。傑作
今回ブログにしたのはこの映画を強く薦めたいからだ。ーーみんなこれ、知らないでしょ?

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オレは知らなかったよ。だがそれもそのはずで、HBOのTVムービーなんだ。しかし本作に触れると驚くだろう。TVムービー特有の「チープさ」は微塵もない。セットアップも俳優も一流だ。
が、(調べると)劇場用として制作するが『配給が(恐れをなして)つかなかった』シロモノ。制作はプランB。HBOが買取りTVでの放映と相成った。

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物語は1981年から83年までの三年間。場所はNY
エイズウィルスと、その偏見に立ち向かったホモセクシャルの男たちの物語だ。それもまだ「エイズ」という名前さえなかった頃の話だ。
彼らは自分も保菌者かもしれない猜疑心、愛する人を疑うことの絶望、そして忍び寄る発症の影に怯えながら、この得体のしれない「ゲイ・キャンサー」の社会的認知度を高めるべく奔走し闘う。
徐々に変容する彼らの描写が胸に迫る。それも、なにがリアルってカポジ肉腫の描写だ・・。
たぶんここまでこの肉腫を正面から描いたエイズ作品もないだろう。それくらい真摯で力強い作品だ。

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マーク・ラファロを筆頭に全ての俳優が良い。
がとくにその中で・・
マット・ボマーが素晴らしすぎる。

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彼に出会うだけでもこの映画を観る価値がある。
それ以上言う必要がない。とにかくスーパーマンのように輝かしく、若さ溢れる彼に会うべきだ。
マット・ボマーはその年の数々の賞に輝いた。作品もエミー賞を総なめにしたとのこと。それはこの作品を観るとよく分かる。し、喜ばしく想える。

エピソードとしての挿話も強い。
政府の審議官の所へ出向くシーンや、なにより、母に会いに行く仲間のシーンは忘れがたく、強い。
しかしこれらは映画上まとまっているだけだ。
当時、形を変え、人知れず無数に存在したエピソードであることを告げているように想う。

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審議官演じるはコリー・ストールだぜ?

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このエピソードも強く忘れがたい

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左が舞台版の主役ジョー・マンテロ

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また、この作品は舞台が先にあったようだ。
舞台版の主役はラファロではなく、劇中では親友役のジョー・マンテロ氏が演っていたそうだ。
で、オレはなぜ「配給が敬遠したか」よくわかる。なぜなら彼が劇中クライマックスに発するセリフが、あまりにもクリティカルだからだ。
ーーこの点も、ここまで言った過去作をしらない。


強く推薦する


言っとくが日本ではDVD化さえされてない。ジュリアロバーツが出ていてもなお、だ。
観れるのはAmazonプライムだけ。神配信だよ。
この「隠れた」名作・・なんで隠れてるのか不思議なくらいの逸品。ユー・マスト・シー

多くの人に観てもらいたい作品だ。




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