わが心のBlog

by Hiroki Utsunomiya

リアルとリアリティー

演技が「リアリティー」に満ちていることと、ありのままの「リアル」は違う。
そのことを寅さんが教えてくれる。(以下敬称略)

男はつらいよ」第9作、柴又慕情を再見した。マドンナは吉永小百合。 小説家を父に持つ、歌子。これは寅さんがあまりにも寅さんな、「男はつらいよ」ど真ん中の、「男はつらいよ」らしさが爆発した作品。 一説には池内淳子の8作目で打ち止めを考えていたらしく、ゆえにこの作品こそがマンネリの起源かもしれない。
でも今回はその周辺ではなく、その映画中の演技のリアリティーを言いたいのだ。

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このシリーズ有数の人気作No.9には、奇妙な違和感にあふれるシーンがある。
旅先で知り合ったOL2人組がとらやにやってくるシーンだ。 そのひとりで、みどり、だったかな。そのOLが寅さんにマドンナ歌子(吉永)のプロフィールを伝えるカットがそれだ。
このカットの、OLの演技がものすごく違和感にあふれているのだ。 それはもーひどい。
言ってしまえば簡単だ。この女優はヘタだ。旅先のシーンが緩慢なのもこの人に依るところが大きい。

しかしだからこそ要・注目なのだ。
なぜならここに、映画のリアリティーとリアルの違いが隠れているから。

bojo05.png この真ん中のヒト


まずなぜ下手なのかを考えると、トーンが合っていないと言える。
「世界」の外にいるのだ。「男はつらいよ」の守備範囲外の発声。 まるで普通の知人に話すようにこのOL役は台詞を言う。 それは旅先で知り合ったその時風のOLという役回りすら、抜けていると感じるぐらいだ。

よく監督OKだしたなと思えるが、リアリティーとリアルを考えると、このOLは「リアル」なのだ。真に受けて引いている。 現実世界を見渡せば、いる。
確実に居るだろう、こういう女性。

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物語の進行上、寅さんはこのOLとのやりとりを避けられない。だから寅さんはこの引いた相手を受けなくてはならない。 ここが興味深い。
明らかに戸惑い、明らかに切れている。そこには寅さんではなく、「渥美清」が垣間見えるのだ。

「なんだそれ・・・おい、オマエその演技はなんだこのやろう」

という渥美清の心理すら透けて見えてしまう。 ここにも生身の「リアル」がある。
「柴又慕情」を観る機会があったら、ぜひここに注目してもらいたい。
もしかすると山田洋次監督は想定込みでこういった「異物」をいれたのかもしれない。だとすると相当意地が悪いが、違いのわかる好例なのだった。

というわけでおわかりの通り、多くの映画において「リアル」は無用の長物である。
寅さんを観ていて渥美清がー、とか、このOL役がー、とか感じちゃう自体が「リアル」であり、いらない要素だ。 そもそも「演技」とは、その時点で「リアル」とはほど遠いし、そうあるべきだ。その【現実—見世物】という距離へのアプローチが古今東西、スタイルやジャンルで違うだけなのだから。


誤解のないように言っておくと、厚塗りのプラス演技をすればいいと言っていない。
しかしよく「リアルな演技」とか言うが、それもただフツーっぽくやることではない。
それでは柴又慕情のOLになってしまうわけだ。
その回避が、それこそ古今東西の演技の歴史なのだ。そして俳優の、物語へのアプローチにたしからしさがあるとき、観客は「リアリティー」を感じる。マドンナに惚れられたと思い「そりゃおまえ考えすぎだよぉ!」と喜ぶ寅さんにリアリティーがあるのだ。

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上図。「そりぁお前、考えすぎだよぉ!」 と喜ぶ寅さんの決定的証拠。笑


寅「(悲壮感に包まれて)ヒロシ・・・・・・、そりゃお前、考えすぎだよ・・・・・・」


と額面通り、困って引いちゃだめなのは、明らかすぎて誰も言わない。
なぜならそれだと「リアル」だからだ。だって吉永小百合が寅さんに惚れる確率がどんだけあんだよ?
で、そんな【落ち込んだ】寅さん見て、誰が愉しいのよ? ギロンにすらならん。
しかし同じセリフなのだ。 与えられたセリフは、ーー「そりゃ おまえ かんがえすぎだよ」。
同じである。ここが重要すぎるんだ。 つまり、ナニを選び取るのか?、ということ。
ここに決定的な違いがですぎるからだ。へたクソな大根役者と、名優の。あるいは演出の。

つまりリアルとは受動態(受け身)であり、リアリティーとは選び抜かれた行動のことである。
ひとつのセリフを発するのも、受け身ではぜんぜんだめってこと。 意味がでない。
リアルとはノイズであり、リアリティーは結晶体だ。 とも言いかえることができる。足し算だの引き算だの、なにが自然だのというのは、物語(What)とスタイル(How)が決めることだ。 コメディこそ結晶化したリアリティーが必要だし、シリアスなドラマだからってすなわち「自然か」なんて決して誰も言えない。 この話をしだすと止まらないのでこのへんで。


とにかく寅さんがもしリアルだったら?
リアル「男はつらいよ」があったら? ドタバタコメディではない。
ガンリアルな「男はつらいよ」・・・。
ありえないマドンナ・・・ 引きまくるとらや・・・ 店をたたむテキヤ稼業・・・・・・


鬼のようにつまらないと思う。 背筋が寒くなる。 なぜ寒くなるか?
それは現実世界がただでさえ、皮一枚で寅さんの裏世界につながっているからだ。
って。ね? だから「リアル」って要らないでしょ? イデアとリアリティーしか欲しくないよ。
寅さんはかくして、重〜い十字架を背負っているのだ。

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追伸:「柴又慕情」自体の感想を少しだけ。
   サユリ・ヨシナガに岡惚れしちゃだめだぁ、とらさん!
   ルリ子かキワ子にしときなよぉ、とらさん!
   それに他者(とらやの面々など)が居ないと何もブリッジできない所なんて
   リアルすぎるよ!(※筆者注:リアルすぎる ≒ リアリティー)

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   つ  ら  す  ぎ  る