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わが心のBlog

by Hiroki Utsunomiya

「ジャンゴ」は爆弾

感想・評論

ジャンゴ 繋がれざる者」を日曜日に観た。未だの方は観てから読んでくださいね。


「なんで映画館で観なかったんだろう・・・」
という強烈な後悔を催した作品に「イングロリアスバスターズ」がボクの中にある。
フォールームスからグラインドハウスまで粛々と足を運んだのにこれをなぜ観にいかなかったのか。 その後DVDで観て最恐に後悔したのだった。
それはあまりにも傑作だったから。(ああ!第1章と「地下」の完成度といったら!)
それにイングロリアスバスターズで改めて痛感したのは、タランティーノという映画監督は「最新作が一番面白い」という非常に珍しい監督の1人ではないか?、ということだった。とくに撮影監督ロバートリチャードソンと組むようになったキル・ビルシリーズ以降、格段に良くなっている。2段ロケットが噴射した感じだ。
ワンカットワンカットが極端に成熟し、彼自身カットをあまり割らなくなったのだ。
これは彼自身の熟成のみならずロバートリチャードソンの画力が相当だからだ。
別にカットを割らないからイイのではなく、カットを割らずともそこに人物とストーリーがあれば映画は成立する、という老獪なまでの確信が今のタランティーノには宿っている。 映画監督と撮影監督はこうありたい、といういい見本だと思う。

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とても長ーい前置きになったけど、悪いわけがない、と「ジャンゴ」を観に行った。
そして、悪いわけがなかった。 何よりタイトルシークエンスにのっけからしびれた。
自分がなぜ痺れているか?と問えば、主人公ジャンゴの登場がビッグアフロだったからだと思う。 繋がれたジェイミーフォックス=ジャンゴが荒野を奴隷商人たちと歩く。 その髪はビッグアフロで素っ裸。 このワクワクはどう言えば伝わるだろう…。
とにかくフォックスのビッグアフロは3つのことを宣言しているのだ。

1. この映画は(タランティーノの映画は)、スターだろうと誰だろうと容赦しない
2. この映画は黒人の魅力を余すところなく伝える。ごらん、手始めにビッグアフロだ
3. さあ。鎖に繋がれ髪は伸び、怯えきった男の復讐劇が、これから始まる

そう宣言している。 このオープニングにワクワクしなかったらウソだろう。

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この映画はキング・シュルツとジャンゴの友情にも似た師弟関係がもうとにかく美しいのだが、夜の岩場でジークフリートの伝説を語るシーンが詩的でとても味わい深い。
キング・シュルツがドイツの伝説にこうある、とジャンゴに話す。

そのジャンゴの表情のもう、泣けること。

その神話に耳を傾けるとき、大のオトナであるジャンゴは、まるで子供のように目を輝かせるのです。 こんなおとぎ話を、毎日の肉体労働以外の話をジャンゴは聞いたことがなかった。そのことがじんわり伝わるフォックスのこの演技は素晴らしく泣けるのだ。些細だし目立たないが、奴隷制度の本質がぐわっと立ち現れる名シーンだと思う。
それにジャンゴの自由に対する喜びが痛いほど伝わってくる。

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タランティーノが唯一アテ書きした、というドイツ演劇界の秘宝クリストフ・ヴァルツは今作も素晴らしい。 良すぎて麻痺するが、良すぎる。
エキストラでマイケルパークスやトムサビーニも出てて嬉しい限り。
特に俳優陣でボクはディカプリオの献身と確かさに拍手と敬意を送りたい。 この映画と「華麗なるギャツビー」を経て、一時は引退を仄めかしたディカプリオだが、無理もないと思う。 それくらいこの映画の彼に与えられた設定は苛烈で、カメラの前で怯むことは一切許されない。 並みの俳優だったら真っ先に断るだろうし、断らずとも想像以上の負荷に途中で降板しただろうとおもう。

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いや。あの、全員そう。
全員、この映画のテーマに対する負荷はものすごかったことは間違いない。 それだけアメリカとアメリカ映画界が一切描いてこなかった奴隷制度の内実を白日のもとに晒した今作。 ボクも普通にショックを受けたし、この娯楽活劇に悲惨きわまる歴史を感じざるを得ず、途方に暮れた。
それは「イングロリアスバスターズ」でもそうだが、その矛先が自国になると観客の視野は急に狭くなるはずなのだ。 字幕はなくても本国アメリカでその場の観客たちと一緒に観たかったなぁと思えた作品です。

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この映画は爆弾だとボクは思う。
タランティーノは常に、だが、ジャンルという隠れ蓑をまとって爆弾を投下する。 それがここ2作でより意味深いものになったと思う。
もちろん娯楽。 だからこそ伝えられるものがある。
ラブストーリーとしての運びはちょっとアレな、弱い所もあるんだけどね……そんなことはいいや。 もう一度行こうかな……

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追伸:
これはボクの意見ではなく、こんなことを示唆している人がいてとても感心した。
前作イングロリアスバスターズの地下、ゲシュタポAugust Diehlの額に張られた「King Kong」のカード。
「アメリカに連れてこられた二グロの話?」 「ナイ」
キングコング!」 一同、ぐったり。
この素晴らしくもがまんたっぷりな名シーンに既にジャンゴのメタファーが隠されている、と。 なるほど。
http://www.letoilemagazine.com/2013/01/17/the-niles-files-shadow-of-a-nation/