わが心のBlog

by Hiroki Utsunomiya

哀しき国の華たち

日本代表にしか興味のない人。もったいない
サッカーに興味のない人。ああもったいない




サッカー選手は《4年に一度、本気になる




ユーモアを交え、そう評されることがある。
サッカーにおけるプロ中のプロたちが、この時だけは我を捨て国の威信をかけ、闘うW杯。
あらゆる恩讐の彼方で結束し、所属プロチームのためにではなく結集し、その「祖国」のために、
《4年に一度だけ、プロ中のプロたちが完全に本気になる》大会。それがW杯だ。


日本代表にしか興味のない人は、あまりにも、もったいない。
いつも思うことなんだが、本当にそう想う。



「祖国」
ということをイメージするとき、ハッキリ言って大陸の人に勝てないのではないかと思う時が多い。
欧州、そして南米の割拠された「祖国」の思い、それはたいへん強いものだからだ。
そんなことも、W杯を結局何大会も目撃してると、よくわかるようになる。
彼らの方が、祖国に対する思いは切実なんだ、と。
そんな「絶対に負けられない闘い」なんていうキャッチコピーは実は彼らにこそ、備わっている。
日本人はきっと、心のどこかで、悠長なんだよ。



オレは毎大会東欧のチームが大好きなのだが、それもきっとその「祖国」への切実さを感じるからだ。
今回もすごくいい話がある。たとえば、クロアチアだ。


98年にベスト4という大躍進の記録を残したクロアチア代表。記憶している人も多いだろう。
当時はスーケルボバン(ああ!最高!)などが伝説を築いた。しかしこれはクロアチア内でも文字通り「伝説」と化し、その後彼ら代表と国民の感情は「98年ロス症候群」に陥った。
どうしても20年前の偉業と比較される代表の面々。
しかしその中でも才能は育っていった。そして今年は眼前と揃ったのだ。


ルカ・モドリッチレアル・マドリー
イバン・ラキティッチバルセロナ
マテオ・コバチッチ(レアル・アドリー)
マリオ・マンジュキッチユヴェントス
デヤン・ロブレンリヴァプール
イバン・ベリシッチ(インテル


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CLを3連覇
(!)したレアル・マドリーでも心臓部を担うスーパースター、モドリッチのチームであることは間違いない。レアルでは奥ゆかしいキャラだが祖国では当然のように、キャプテンだ。
そんな彼も33歳。この大会への決意も如何なるかを察して余りある。


ここで本当にいい話があるんだ。
それはイバン・ラキティッチの話。


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彼、イバン・ラキティッチ(30歳)もバルセロナの攻守の支柱だ。その中盤ならどこでも任せられる万能型のプレースタイルは、よくモドリッチとも比較されるのだった。
だってバルサスタメンだぜ? 中盤の? しかも攻撃力も半端なく高い(それも察して余りある)。
つまり、クロアチアの中盤にはバルサとレアルの心臓部が集まっている状況なんだ。

ここで、オレが先日触れたドキュメンタリーでのラキティッチのコメントを紹介する。
彼が、W杯で自分の役割を聴かれた際の言葉だ





ラキティッチ
「ぼくはルカ(モドリッチ)を自由にするためだったら、なんでもする」






それこそ曇りなき眼でそう言い切ってたんだ、インタビューで。
クロアチアでのモドリッチは、一枚上がり「トップ下」になる。ボランチ業から解き放たれて
そして、その自由を許可しうしろから支えるのが、ラキティッチなんだよ。






この意味がわかりますか、みなさん






もうね、それこそ敬意も献身も責任も友情も自分が超えてきた自信も抱えた、成熟の言葉だ。
もう一度言うよ、バルサの、攻撃可能のスタメンでだ、こう言い切れる人が他国にはいるんだよ

そして、それを串刺すのは「祖国」への想いだ。
東欧は哀しい歴史に満ちている。
戦争によって、内戦によって、そして民族浄化という哀しき歴史をも背負っている。
その祖国への想い、平和で国がある事への祈りさえ、充分感じることができようものではないか。
彼らは証明したいんだ、勝ち上がる祖国を。そのために我(のポジション)なんて捨てられるんだよ。
本当にこの機会に賭けているんだよ。

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セルビアにはマンUマティッチがいて、彼がチームを牽引する。

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そしてポーランドではレヴァンドフスキが、チームを引っ張ってゆく。

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あのねぇ。
彼らは本当に祖国では英雄なんだ。我々が思うよりもずっとずっと。哀しき国の華たちなんだよ。
たとえばだ。ドログバコートジボワールでは今でも首相より人気があり、エジプトのサラーに至っては選挙で(立候補なんて当然してないのに)自国のトップの得票を獲得してしまうんだ。
各国のスターたちがそんな国民の期待を背負い、「なりふり」を捨て全てを賭ける舞台。
それがW杯だ。


「祖国」
ということをイメージするとき、ハッキリ言って大陸の人に勝てないのではないかと思う時が多い。
彼らは国境で区切られている中、またその境界線も時代によって変わる中、「アイデンティティとは何か」を常に考えざるを得ないからだ。キラ星のような才能たちに賭ける想いもひとしおなんだ。




最後に、4年前のチリ
ブラジルW杯時のチリ銀行のCMを紹介する。何度見ても胸を打つ。
(そしてこの想いを背負って、当時のA・サンチェス(当時アーセナル)は闘ったんだ)
これだけ言い切れる「エール」を、キリンやアディダスジャパンは作れるだろうか——。


さあ。ロシアW杯が始まる。
32カ国の矜恃を感じる、贅沢すぎる大会なんだよ
それを目撃しないなんて、もったいなさすぎる